花々は斥候の兵士に問いました。 「我々はどうなるのか」と。 「このまま、戦車に轢かれるだろう」そう兵士は答えました。 明るく広い花々の園で、兵士は答えたのです。 この園が、なくなるかもしれない。それは、そう言う事を意味しました。 桃色の花々が咲く中、兵士は緑色の迷彩服で、ちぎった花々を全身に刺し、屈みながら歩いて敵の目を欺き歩いています。 花を踏みつけながら歩き、戦車が通れる道を探していました。 花々の園に足跡をつけ、静寂の余りに聞いた悲鳴の様な小さな音が足元から聞こえ、いつになく感傷的な気持ちを持っていたからでしょうか。 花々の声を聞いたのです。 怒りを含んだ声を。花々の懇願を含む声を。 歩みを止めさせるかのように、地面には足に大きな傷をつける様な鉄クズがありました。撃墜されたと思しき飛行機の部品が。 戦争は、ここにも被害を及ぼしていたのです。 花々は言います。 「我々も生きているのだ」と。 子孫を残す大切な季節。人の目を楽しませるだけでなく、蝶などの他の生物を育む季節。 「お前たちはただ強いからといって、どこまで無道を行うのだ」 「すまない」 無念そうな声で、兵士は答えました。 戦車が通れば、この園はなくなるでしょうから。 苦々しい声で続けて言います。 「でも俺らは強いから、強すぎるからお前たちに無道を行ってしまう。それはお前たちと同じなはずだ。ここまで花を咲かす為に多くを犠牲にしてきただろう。それは運良く、強かったからだ。俺らもお前らも生きているだけだ」 続けて言います。 「俺らは俺らと同じ人間の命を奪おうとしている。悪行だとわかっている。戦車を通すのもそのためだ。でも俺はお前たちの上に戦車を通す。許しは求めない。 守りたいから、やるだけだ」 花々は沈黙しました。 花々もまた、兵士と同じく自分たちの子孫を残したいと言う気持ちから、兵士に今の様な事を言ったのです。 ここには入ろうとした他の見たことのない花々を排除し、枯らして土にしてしまってきました。 なぜそんな事をしたのか。 それは守りたいと言う気持ちからです。 欲望のためでした。 口を閉ざしていた、鮮やかな花で彩られた兵士の口が開きました。 「お前らの言い分はもっともだから、せめてお前らがあまり咲いていない所を出来る限り通るようにする」 善い事ではありません。一番善い事は、戦車を通さず戦争をしないことですから。 しかし、それがこの花の一部となった兵士にとっての精一杯でした。 花々は、花々で偽装する兵士は、陽の傾きのためか輝いているように見えました。 花々と兵士はお互いそう見えました。 兵士は花々の中をゆっくりと屈んだままでゆっくりと歩み、その中を偽装に使う花を取り替えながら通り過ぎ、花の園が終る頃になって身を包むかのように刺していた全ての花を捨て、緑一色の草を全身に刺しそのまま森の中に消えました。 後日、多くの戦車があの花園を踏み潰したのでした。 何本かの花が、それを見送りつつ。 |